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2024年介護保険制度改定の行方を決める大きな一年
あけましておめでとうございます。
2022年は思い返すだけでもとんでもない一年でした。
- ロシアとウクライナの戦争
- 安部元首相の銃撃事件
- 統一教会と政治の腐敗問題
- 驚異的な円安・物価高・燃料高
- 新型コロナウイルス・オミクロン株の大流行
映画の世界のようなめちゃくちゃなことがいくつも起きたこの一年。この世界、何が起きてもおかしくないんだなということを改めて実感することができました。(日本がドイツとスペインに勝つということもですが)
2023年はどんな一年になるでしょうか。
介護保険制度の未来を大胆予想
介護業界では2024年に介護保険制度改定を控えています。
2024年の介護保険制度改定の大枠はこの一年で決定します。
つまり、この一年は2024年以降の介護保険制度・介護業界のあり方を決める重要な一年だといえるのです。
介護保険というルールの下で事業運営をする介護事業者としては、制度の変更によって自らの活動内容を制限され、方針を転換し、事業の存続自体にも大きな影響を与えるのが制度改定。
私たちと私たちのサービスを必要としている人たちの未来がこの一年の議論で左右されてしまいます。
すでにいくつか制度改定の議論が行われていますが、概ね介護事業者にとって好ましくない制度改定案が並んでいるのが現状です。
これらの制度改定の案が、実現するのか、見送られるのか。介護保険制度改定の内容を実現可能性も踏まえて大胆予想したいと思います。
介護保険制度改定、主な争点と実現可能性
介護保険の制度改定、主な争点と実現可能性について、表にまとめました。
改定案 | 実現可能性 | 備考 |
要介護1・2の総合事業への移行 | 見送り確定 | 2027年制度改定に向けて検討 |
ケアプラン有料化 | 見送り確定 | 2027年制度改定に向けて検討 |
自己負担割合を原則2割に | 微妙 | 今夏に結論 |
通所介護による訪問サービス | ほぼ確定 | 報酬体系は不透明 |
居宅介護支援・訪問介護の科学的介護導入 | ほぼ確定 | 報酬体系は不透明 |
財務状況の見える化 | ほぼほぼ確定 | 職員一人当たり賃金を公開するか |
居宅介護支援事業所が予防支援指定 | ほぼ確定 | 包括の介入方法と報酬は? |
特養入所要件の緩和 | 確定 | |
AIケアプランによる負担軽減 | 微妙 | 件数上限緩和とセット? |
福祉用具のレンタル一部を購入へ | かなり微妙 | 選択制も含めて |
処遇改善加算の一本化 | ほぼ確定 | 報酬体系は不透明 |
介護保険制度改定・介護報酬改定の主な争点と現時点での実現可能性をまとめました。
ここまで、厚生労働省の介護保険部会で議論が行われた内容に関しては議事録などにまとまっていますので、確認いただければと思います。
紹介した争点をひとつずつ紹介していきたいと思います。
要介護1・2の総合事業への移行
実現可能性:見送り確定
テレビ等のメディアやSNSでも話題になった要介護1・2の総合事業への移行、いわゆる「要介護1・2の保険外し」問題です。
要介護1と要介護2を軽度者とし、通所介護と訪問介護・居宅介護支援は要支援1・2認定者と同様に介護保険の介護給付の枠組みから外し、市町村事業である総合事業に移行するというものです。
総合事業への移行により、サービス利用回数制限・報酬単価の大幅な削減を狙っていました。
こちらは世論の反発も大きかったこともあり、今回の制度改定には盛り込まれないことが確定しました。
ただ、単に廃案になったわけではなく、2027年の制度改定に向けて検討するということで、財務省はまだ諦めていないようですね。
いずれにしても、今回の介護保険制度改定に関しては見送りとなりました。
ケアプラン有料化
実現可能性:見送り確定
これは制度改定のたびに議論になるのですが、居宅介護支援事業所のケアマネジャーのサービスに自己負担を発生させるというものです。
居宅介護支援事業所の報酬のほぼ大半は居宅介護支援費(いわゆるケアプラン作成料)になるのですが、ケアマネの仕事はケアプランを作ることだけでありません。そもそもケアプランを作成したとしても、ケアプランに位置付けた介護保険サービスによる給付が発生しなければ一円も報酬が入ってこないのです。
さらに、地域ケア会議などによる地域の課題解決なども含め、ケアマネには様々な仕事を押し付けておいて(国はマイナンバーカードの申請の手伝いまでさせようとしていますが)、ケアプラン作成料として自己負担を発生させようというのは明らかに論理矛盾しています。
さらに特定事業所の居宅介護支援事業所とそれ以外の居宅介護支援事業所の報酬格差が大きすぎるため、報酬体系自体を見直さなければいけないという問題も含んでいます。
こちらも世論からの大きな反対にあい、今回の制度改定では見送りが決定しました。
とはいっても、こちらも2027年に向けて再検討するということでした。日本ケアマネ協会も、いつも財務省から案が出てきてから反論するまで腰が重いので(支持団体が自民党だからなんでしょうけれど)もう今から再検討に反対を表明したらどうなんでしょう。そもそも自民党を支持しているのにこんなにないがしろにされていて、どんだけドM団体なんでしょう。
自己負担割合を原則2割に
実現可能性:微妙
今回の制度改定、最大の争点はここに移っています。
介護保険サービス利用時に発生する自己負担、現在は利用者の9割以上は自己負担1割にあたります。これを原則2割にするという案です。
自己負担割合を引き上げることで、給付の削減と、現役世代との不公平感の是正を目指しています。
自己負担割合が引きあがることで、サービス利用控えの発生も予想されます。2割負担になれば、自己負担は実質2倍となります。物価高や燃料費などの高騰で家計を圧迫している状況でありながら、自己負担を引き上げることで、国民生活には大きな影響が予想されます。
しかし、全額社会保障費に充てるとされた消費税増税があったばかり。税収は過去最高を記録。それでも社会保障費が不足していると自己負担増に踏み切ろうとするのはなぜか。まずは説明があってしかるべきなところ、それがないことが最大の問題だと考えます。
本来、昨年12月に方針が決定する予定でしたが、この決定が見送られました。
あくまで決定を先送りにしただけで、年内行うはずの判断を2023年夏まで保留としただけで、2024年の改正に盛り込まれるかは今後の議論次第となっています。
なぜこのタイミングでの決定を行わず、議論を先送りにしたのか。
ひとつの要因は円安・物価高・燃料費高などで国民生活に経済的なダメージが大きい中、追い打ちをかけるような負担増を決定することを避けたというもの。
もうひとつは、与党・岸田政権の支持率が悪化しており、政権地盤が揺らぎかねない事態にあることから、このタイミングを避けたというもの。
どちらにしても、政権支持率などから世論の反発を避けたというのが実際のところです。
夏にどのような決定になるか、というところですが、これは世論によって左右されるのだろうと思われます。ただ、前述の「要介護1・2の総合事業への移行」「ケアプラン有料化」同様に見送りにせず夏までの判断先送りとしたということは、世論次第では引き上げのチャンスがあると財務省は見込んでいると思われます。
今後、制度改正に関しては自己負担割合の問題が最も大きな争点になると思われます。
通所介護による訪問サービス
実現可能性:ほぼ確定
通所介護事業所(デイサービス)が訪問介護のサービスを提供できるようにするというもの。
これは新しいサービス種別として位置づけられる見込みです。つまり、宿泊なし小規模多機能居宅介護事業所という新たなサービス種別が生まれるということです。
ことの発端は訪問介護の担い手不足です。ホームヘルパー人材が不足しており、訪問介護事業所の閉鎖が相次いでいます。在宅の生活基盤を支える訪問介護を受けられない地域が出てくる可能性もあります。
そこで、デイサービスの職員でも訪問サービスをできるようにするというものです。
とはいえ、デイサービスの職員だって余剰があるわけではなく人材不足であることには変わりありません。
訪問介護の報酬の低さを是正し、訪問介護の待遇を改善し、ホームヘルパーの人材を増やせる環境を作るという方向にいかないのが不思議でしょうがありません。
また、訪問介護サービスの提供は初任者研修修了者(旧ホームヘルパー2級)以上であることが要件とされていますが、通所サービスに勤務する無資格者が訪問サービスを提供するのはどうかという意見もあります。
この新しいサービスは小規模多機能のような定額報酬になるのではないかと言われていますが、まだまだ報酬体系は不透明です。
居宅介護支援・訪問介護の科学的介護導入
実現可能性:ほぼ確定
介護のビッグデータ収集をするために、すでに介護保険施設やデイサービスなどでは導入が始まっているLIFE。居宅介護支援や訪問介護でも導入すると言われています。
LIFEの最終的な目標は、ビッグデータを収集することにより、客観的な「適切な介護」を定義することです。ケアプランやサービス計画の自動生成という未来を目指しているのだと思われます。
ただ、LIFEが現時点でどこまで現場で意味を持っているのか、そして収集したデータがどこまで意味のあるものにできているのかはまったく見えてきていません。
財務状況の見える化
実現可能性:ほぼほぼ確定
これは介護事業者に対し、財務諸表をサービス情報公表システムを通して公開することを義務付けるというものです。
おそらくこれはもう動くことはないと思うのですが、なぜこの改正を行うかというと、大規模事業者が利用者獲得に有利にするためですよね。
財務諸表を公開するというだけでも小規模事業者にとっては大きな負担になりますので、小規模事業者つぶしというのが最大の狙いです。
一人当たりの賃金も公開すべきという意見が上がっていますが、ひとり事業所の居宅介護支援事業者で働くケアマネなんて年収大公開状態です。これ、ものすごいプライバシーの侵害だと思うんですけど、だれも何も言わないんでしょうかね。
居宅介護支援事業所が予防支援指定
実現可能性:ほぼ確定
要支援1・2のケアプラン作成については予防支援の指定を受けている地域包括支援センターが行っています。居宅介護支援事業所のケアマネジャーがプランを作成しているのは、委託という方式で、契約の主体は地域包括支援センターになっています。
この契約の主体が居宅介護支援事業所になるように、居宅介護支援事業所が予防支援の指定を受けられるようにするというものです。
もともと要支援のケアマネジメントは居宅介護支援事業所で行っていました。しかし、2005年介護保険の制度改正において、居宅介護支援事業所のケアマネジメントでは要支援の利用者の自立を阻害し、重度化を招いていると問題視されました。より専門性の高い地域包括支援センターが予防ケアプランを作成することで、予防重視の制度に舵を切ったという経緯があります。
ところが、予防重点化の施策は完全な失敗に終わりました(要介護認定の厳格化で重度者の増加に歯止めをかけようとしていますが)。
果たして包括がケアマネジメントをすることになって、どれだけの効果があったのか。あれだけ居宅介護支援事業所の予防ケアマネジメントをコケにしておいて、包括の業務負担が大きいからはいお願いというのはあまりにも馬鹿にされすぎていませんか?
予防支援を居宅介護支援事業所で指定を受けるようにするとしても、包括も一定の介入ができるようにするという点で、果たしてどのような形で介入を行う仕組みにするのか。
また、現在400単位ちょっとという激安の報酬単価がどうなるか。
委託で利用している利用者との契約はどうなるか。
このあたりが大きな争点になりそうです。
特養入所要件の緩和
実現可能性:確定
これは制度改定というよりも、現行制度内の中で緩和していく方向性になります。
現在特別養護老人ホームの入所要件は要介護3以上となっています。
ただ、地域によっては施設の空床が増えており、施設の経営を圧迫しているという状況も見られています。
要介護1・2でも特例入所という手段で入所することが可能ですが、特例入所のハードルが高く入所したくても要介護1・2では空床があっても入所できないという状況でした。
この要件を緩和し、空床を減らすことができるよう、柔軟な運用をするようにと指示している状況です。
地域によってはすでに高齢者人口のピークを越えたところもありますので、地域の状況によって柔軟に運営できるようにしていくことが必要です。
AIケアプランによる負担軽減
実現可能性:微妙
ケアマネの業務負担軽減はマストだと思います。ケアマネとして働く人が減っていますので、おそらくケアマネ一人当たりの担当件数引き上げは必要になると思います。
そのために、ケアマネの負担を軽減する仕組みが必要になると考えています。
制度改定より前倒しでスタートするケアプランのデータ連携と、AIケアプランを導入している事業所には担当件数の上限を引き上げるというのはあるかもしれません。これは前回、制度改定において、事務職員や情報通信機器などの要件を満たせば担当件数の上限が緩和されましたが、同じパターンで担当件数の緩和は仕掛けてくるのではないかと思います。
加算などで報酬引き上げにしてもらいたいですけどね。
福祉用具のレンタル一部を購入へ
実現可能性:かなり微妙
福祉用具のレンタルの一部を購入対象商品に変更するという案です。大きな話題になりましたがここにきて急にトーンダウンした印象があります。
購入とレンタルの選択制にする案や、大阪府大東市の行っている購入前提のレンタル(予防のみ)などの案も出ていますが、福祉用具卸会社の在庫負担など様々な問題があります。
一番の狙いは福祉用具業者ではなく、福祉用具レンタルによる居宅介護支援事業所への報酬発生を避けることです。これも居宅介護支援事業所つぶしの政策ですよね。
レンタルと購入、どちらか選べるようにしますという余地を残す可能性もあるかもしれませんが、いろいろ問題ありそうですよね。生活保護の利用者を利用して購入してそれを転売する業者が出てくることも考えられます。
財務省もぶち上げてみたはいいけれど、様々な業界からの反対にあってさすがにトーンダウン中。このままフェードアウトしていく可能性は大きいなと予想しています。
処遇改善加算の一本化
実現可能性:ほぼ確定
現在3種類ある処遇改善加算を見直し、一本化すると言われています。
- 介護職員処遇改善加算
- 介護職員等特定処遇改善加算
- 介護職員等ベースアップ等支援加算
事業所はそれぞれ加算の申請をしなければならず、その負担は非常に大きいことから、早急に一本化すべきだと思います。そもそも加算要件を一部運営基準に位置付け、基本報酬単価に内包化すべき部分もあると思うので、このあたりの整理をきちんとすべきではないでしょうか。
以上、改正の争点と実現可能性(予想)についてまとめました。
まとめ:今後の動向を決めるのは世論
大枠で決まった部分もありますが、報酬単価がどうなるか、要件がどうなるか、具体的な部分はまだまだ今後の議論にゆだねられます。
今後の議論の中心は自己負担割合引き上げになってくると思います。
財務省のやり口として、これは毎回同じですが、業界へのインパクトの大きい話題をぶち上げておき、そこに焦点が集まっている間に、本来の狙いにしている本丸を攻略するパターンが定着しています。
今回の場合は、要介護1と2の総合事業への移行やケアプラン有料化などが見せ球で、ここに世間の関心を集中させておき、本丸としている自己負担割合引き上げを仕掛けるという狙いと思われます。
大事なのは関心を持ち続けること、SNSなどで情報を発信すること。介護事業は制度についていけば安泰という事業ではありません。NOというべきことにははっきりNOを示すことで、介護の未来を守っていきましょう。
編集:
介護福祉ウェブ制作ウェルコネクト編集部(主任介護支援専門員)
ケアマネジャーや地域包括支援センターなど相談業務に携わった経験や多職種連携スキルをもとに、介護福祉専門のウェブ制作ウェルコネクトを設立。情報発信と介護事業者に特化したウェブ制作サービスを行う。