2024年の介護保険制度改正を控えた今も、多くの介護事業者にとって目下の最も大きな課題は「人材確保」です。
以下のように人材確保に大きな悩みを抱えている介護事業者は非常に多いです。
- サービスの需要はあるものの、サービスを提供するスタッフが不足している。
- スタッフの定着率が悪く、常に人材が不足している。
- 新規事業を開拓するのに必要な人手が足りない。
- 専門的知識を持った人材が獲得できない。
そして、この人材確保の問題と密接に関連しているのが、介護分野の人材紹介業です。
介護保険の制度改正の審議においても、人材紹介業に対する規制を行う必要性が議論されています。
今回は、介護分野の人材ビジネスと採用戦略の今後について解説していきたいと思います。
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肥大する介護分野の人材ビジネス
介護分野の人材紹介会社は介護事業者にとって「敵」か「味方」か
以前、以下のような記事を掲載しました。
「敵」と表現するのは誤解を与えかねないとも思いましたが、人材紹介会社の存在はミクロの視点では介護事業者を助けているのですが、マクロの視点から見ると介護業界にとって望ましくない結果をもたらしているのではないでしょうか。
介護人材ビジネスの現状と課題
介護分野の人材紹介ビジネスについて簡単におさらいします。
人材紹介会社は、介護分野への就職を希望する求職者を介護事業者に紹介することで報酬を得ています。求職者が費用を負担するのではなく、報酬を支払うのは人材を獲得する介護事業者です。つまり、介護事業者は人材の紹介や面接のセッティング、採用後のフォローという仕事への対価として、人材紹介会社へ報酬を支払っているのです。
人材紹介会社へ支払う対価となる手数料ですが、これが高額であると問題になっています。
過去に人材紹介会社を活用して職員を採用した施設は、人材紹介会社に手数料として1施設当たり年間平均354.5万円を支払っているとのことでした。
また、人材紹介会社が設定する手数料は、採用する職員の年収の30%が相場と言われています。職歴が未経験でも、過去に職場を転々としている方でも、同じように手数料を設定することもあり、人材紹介会社がかなり優位になっている状況だと言えます。
以下に紹介するのは特別養護老人ホームでの採用に関する調査ですが、人材紹介会社を利用指定採用した職員の定着率が低いと回答した施設が41.7%となっています。定着率が高いと回答した4.0%に比べて明らかに低いことから、人材紹介会社への満足度は総じて低くなっているのが現状です。
引用:2022年度 特別養護老人ホームの人材確保および処遇改善に関する調査結果(独立行政法人福祉医療機構経営サポートセンターリサーチグループ)
人材紹介会社に対する介護事業者の満足度が低い。ならば利用しなければいい話ですが、それでも人材確保が困難な事業者はまた人材紹介会社に依頼をしているのです。
人材紹介会社に頼らなければ採用ができないという状況が続いている、これが根本的な問題なのです。
人材紹介会社を利用する事業者はどうなるか。
- 採用にかかるコストが増大
- 既存の職員の昇給など待遇改善を進めることができない
- 職員の満足度が低くなる
- 離職率が上昇
- そしてまた人を確保するために人材紹介会社に相談する
という事業者にとってはこの負のループが続いていくということです。
このループに歯止めをかけなければいけないのですが、それができない事業者は経営状態も悪化し、事業の継続も危ぶまれるという大きな問題となっています。
人材紹介会社への規制強化
財務省の提言
財務省は介護分野の人材ビジネスに関し、「人材紹介会社の規制強化」という表現で提言を行っています。
財務省が提言したのが以下の資料です。
すでに財務省は人材紹介会社が設定している「就職お祝い金」を禁止すべきと提言しています。これは、採用決定後に人材紹介会社から採用されたスタッフにお祝い金を支払うというもの。人材紹介会社はこれを餌に求職者を確保し、施設・事業所に紹介を行っていました。
就職お祝い金に関しては政府の規制改革推進会議でも言及されましたが、財務省も続いて、これを規制すべきという立場を明確に示しています。
また、30%を相場とする高額な手数料に関しても、一定の水準を設定するなど、高騰に歯止めをかけることを要請しています。
これが実現すれば人材紹介会社は高額な手数料を請求できなくなり、規模の縮小や徹底をする業者が出てくることも予想されます。
財務省は、ハローワークや都道府県等を介した公的人材紹介を強化するべきと発言しています。しかし、それが機能していればこのようなことにはなっていなかったはず。そもそも、求人情報が無味乾燥として職場の雰囲気も感じることができないハローワークでのマッチングが急激に改善することはあまり期待できないでしょう。
そして、人材採用を独力で実現できなかった事業所・施設側にも、採用を強化できず、紹介会社への手数料で解決してしまっていた問題もあります。
介護事業者はどこに人材採用の活路を見出すべきでしょうか。
ホームページで人材採用を強化する
人材採用の活路をどこに見出すか
以下に紹介するのは先ほど紹介した特別養護老人ホームでの採用に関する調査結果です。
採用に最も効果があったものとして、上位がハローワーク、人材紹介会社、職員からの紹介という調査結果を公開しています。
上位3位に続くのは法人・施設のホームページとなっています。それに続いて、転職サイト・求人情報誌・社協・合同説明会・SNSとなっています。昨今注目されているSNSですが、採用の効果を実感している施設はまだまだ少ないことがわかります。
人材紹介会社への規制や、人材紹介会社の紹介ビジネスの問題点が注目されることで、今後、人材紹介会社経由での採用パターンは少なくなっていくと思われます。
では、それに代わる採用のための施策として、施設・事業所は何に注力すべきか。
ハローワークでは待遇面を改善しない限り差別化はできない。人材採用は利用しない。口コミ採用には限度がある。
となると、「ホームページ経由の採用」が今後さらに大きな役割を担うことが期待されます。ホームページを強化することでダイレクトに人材採用につなげていくことは、大きな可能性を持っています。
これまで求職者の多くはインターネット経由で人材紹介会社にたどり着いていたのですから、インターネット経由でそのユーザーを直接獲得する可能性が高くなります。
今後は人材紹介ビジネスから撤退する業者や規模を縮小する業者が増える中、施設・事業所のホームページからの直接採用にシフトしていくと予想されます。
採用のためのホームページ施策
直接採用を拡大するため、事業所にできるホームページ施策はいくらでもあります。
- 事業所独自の魅力を伝える
- 採用後の勤務をイメージしやすいように一日のスケジュールなどを掲載する
- 先輩社員のインタビューを掲載する
- ユーザー目線でサイトの動線を設計する
- 見学会・相談会の開催
- 採用専用のサイトを作成する
- 求職者向けの動画を作成する
- SNSで求職者向けのコンテンツを作る
- アクセス解析で導線や離脱ページを確認しサイト設計を見直す
- 採用したい人物像に合わせてサイトのデザインやイメージ画像を見直す
採用のためにやらなければいけないことは何か?やるべきことはいくらでもある。
ホームページを通して採用を強化することができれば、採用にかかるコストを削減し、既存スタッフの待遇改善も実現でき、プラスの循環を手にすることができるのです。
既存のホームページが採用につながっていないのであれば見直しましょう。
また、ホームページを持っていない事業者は、人材採用のトレンドが大きな転換を迎えるその前に、できるだけ早く行動することをお勧めします。
“紹介業者に依存しない採用戦略とは?人材紹介会社への規制で激変する人材採用!” への3件のフィードバック