久しぶりにブログ更新します。
すでに介護保険制度の次期改定にむけた議論が盛んにおこなわれています。
2024年改定は事業者にとって逆風になるんじゃないかという意見が強く、おそらくこのまま大幅なマイナス改定路線で進むと思われます。じゃあなんのための消費税増税だったのか、全額社会保障の財源に充てるための増税じゃなかったのか、とか、思うところはいろいろありつつ、話が長くなるので少し置いておいて。
その中でも白熱しているのが、「福祉用具貸与のみ」のケアプランは、居宅介護支援事業所が受け取る居宅介護支援費を減額するべきだ!と財務省が指摘した問題です。
福祉用具貸与のみのケアプラン、介護報酬のカットを 財務省 2024年度からの実施を主張
今後の介護保険制度の見直しもテーマとなった13日の財政制度等審議会・財政制度分科会 − 。財務省は居宅介護支援のケアマネジメントについて、ケアプランが福祉用具貸与のみのケースの介護報酬を引き下げるべきと重ねて主張した。
新たに利用者負担を導入することと併せて、2024年度から実現すべきと訴えた。
膨張を続ける給付費の抑制につなげたい考え。40歳以上の保険料負担が重くなり過ぎるのを防ぐ狙いもある。来月にもまとめる審議会の提言(建議)に盛り込み、政府内で実現を働きかけていく構えだ。
財務省は介護報酬を引き下げる根拠を、「サービスの内容に応じた報酬体系とすること」と説明。福祉用具貸与のみのケースは他と比べて労力が少ない、という認識に基づき論陣を張っている。
介護のニュースサイト jointより
今回は福祉用具のみのケアプランの減額問題について、これまでの経緯も踏まえて問題点を紹介していきます。
この記事のコンテンツ
そもそも福祉用具貸与のみのケアプランは簡単なのか?
福祉用具のみのケアプランとは
「福祉用具のみのケアプラン」とは、介護保険の給付対象サービスが福祉用具貸与(レンタル)しか存在しないケアプランです。もちろん、ケアプランを作成するのは居宅介護支援事業所のケアマネジャーです。
例えば、
歩行補助つえや歩行器などをレンタルで利用しているけれど、訪問介護やデイサービスなどの利用はしていない、というケースがこれに該当します。
財務省は「福祉用具貸与のみのケアプランなんて手間もかからないから簡単でしょ」みたいな言い分をするんですけれど、果たしてそうでしょうか。
財務省の提言では、レンタル価格1,500円(1割負担であれば利用者負担150円)の杖をレンタルするのに対して、ケアマネに支払われる居宅介護支援費10,000円として計算しています。
1,500円のサービス(福祉用具レンタル)のために1万円(居宅介護支援費)の介護給付費が発生して、財政負担しなきゃいけないのはおかしいじゃないかという言い分のようです。
財務省の提言内容が明らかに的外れだといえる根拠
以上が財務省の言い分ですが、個人的に思う部分を羅列して書いてみます。
- 福祉用具のレンタルと単純に言っても、利用者の状態に合わせて適切な品目を選定、追加するなど、状態に合わせて変更する必要がある。福祉用具の種類が追加するたびにケアプランを変更しているので、手間は変わらない。
- 福祉用具のレンタル価格も基準に応じて見直しを行っていることから、単位数がコロコロ変わって手間も多い。
- ケアプランにはインフォーマルサービスを位置付けることを厚生労働省にゴリ押しされ続けて、給付対象は福祉用具だけだから報酬カットしますというのはそもそもおかしい。
- 末期がんなどの利用者は、訪問看護も介護保険から抜けて医療保険対象になるので、介護保険サービスは福祉用具のみになる場合が圧倒的に多い。厚生労働省がケアマネに終末期の対応をこれまで求めてきたのと逆行している。
- そもそも利用しているサービスが何であれ、インテーク・アセスメント・プランニング・担当者会議・給付管理・モニタリング・評価といったケアマネジメントプロセスは変わらないので、手間が少なくなることはない。
こうやってみると、どれだけ財務省の指摘が的外れなのかわかると思うのですが。
ぶっちゃけ、福祉用具のみのプランでめちゃくちゃ大変なケースいくらでもありますから。
がん末期で、訪問看護が毎日訪問し、訪問診療にも同席してカンファレンスを開催。入浴の希望はないので訪問入浴は利用せず、介護用ベッドと付属品のレンタル・褥瘡予防用マットのレンタル・車いすのレンタルを利用。その他、在宅酸素や点滴使用して、点滴台は自費レンタルでとか。急激に状態進行しているので、褥瘡予防用マットレスや車いすの変更頻度も高く、その都度ケアプランを見直したり。医療保険は高額療養になるから訪問診療や訪問看護は利用できるけれど、お金がないから福祉用具以外のサービスは利用したくても利用できないとか。そんなケース、ゴロゴロありますよ。それでも、財務省から言わせれば「労力が少ない」ケアプランなんですよ。
まあ、現場を知らない人が言いそうなことです。
あと、インフォーマルサービスについては、別の記事でもまとめていますので、そちらも併せてご確認ください。介護保険対象外のインフォーマルサービスが多く、給付対象は福祉用具だけというケースもあります。訪問介護だって人手不足だし、インフォーマルでどうにかしなきゃいけないパターンだってこれからますます増えていくと思うんですよ。訪問介護や通所介護は総合事業対象になったら必然的に介護保険サービスが福祉用具だけになる事もあるでしょうし。
(ついに)介護支援専門員協会からもまっとうな批判が
そして、ケアマネの業界団体である日本介護支援専門員協会からも、(ついに)まっとうな反論が示されました。
日本介護支援専門員協会:福祉用具貸与サービスの単独利用における居宅介護支援の実態調査報告書
日本介護支援専門員協会がこれほどまっとうで根拠をもとにした反論をしたことはなかったかもしれないと思うくらい、論点が整理されていますね。
「福祉用具のみプラン」驚きの調査結果!
調査結果では、財務省が問題と指摘していた「歩行補助杖貸与のみを利用」しているプランは給付対象者全体の1.2%にしか過ぎなかったということです。
たったの1.2%です。
それをモデルに仕立てて、対象を福祉用具のみ利用者全体に膨らませ、あたかも居宅介護支援事業者が、サービスの必要ない高齢者に100円だからと杖をレンタルさせて、甘い蜜を吸い続けていると喧伝しているのです。たった1.2%だけですよ。
そして、介護保険制度の要である居宅介護支援のサービスの評価を下げ、報酬をカットしようとしているのです。
どんだけ悪意の塊なんでしょう。
介護支援専門員協会は財務省に物を言える団体になれるのか
ただ残念なのは、調査対象者の少なさですね。回答率は63.9%。580名にしかアンケートを徴収できていないということがわかります。
有効回答者が545名しか得られなかったと。
協会員以外にも対象広げてアンケート取ってもいいくらいだとは思いますけど。アンケート回収期間も短いし年度末だし、それを考えればよくやったと評価してあげたい調査だと思います。グッジョブです。
介護支援専門員協会がこのように現場の声や実情を伝えていくことができれば、ここまで財務省が暴走することはなかったのかもしれませんが、ちょっと遅きに失した感もあります。
この議論は今に始まったことではない
でも、この議論って、実際は今に始まったことではないんですよね。
平成26年11月の介護給付費分科会という介護保険改正の道筋を決める厚生労働省の分科会でもこの議論が出てきています。
実は平成26年の時点でもこのような議論があったことがわかります。
こういう芽がいつまでもくすぶり続けて、いつの間にか既定路線になっていくのが最近のパターンですよね。居宅介護支援費の利用者自己負担問題や、利用者負担の原則2割問題なんかもそうですよね。
今回の福祉用具のみプランの減額問題も、最初に出てきた段階でしっかり根拠を持って叩いておくべきだったのかもしれません。
時期介護保険改正に向けて、ケアマネは誇りと責任を持って
つらつらと言いたいことを書いてきましたが。。。
財務省はこれだけ不景気が続いて国民の財産を奪っておきながら、財政が苦しいと言って社会保障にかかるお金に平然と手を付けると。それだけならまだしも、誰かを悪者に仕立て上げて陥れ、社会の議論を誘導しようとする手法は本当に悪辣だと思います。
ケアマネ批判に関しても、公正中立なケアマネジメントができていないとされるサービス付き高齢者向け住宅などの実質併設施設のケアプランを引き合いに出して、ケアマネジメントの質を批判し、ケアマネ全体の評価を下げようとする。
毎度財務省のやり方ですし、これに疑問を感じない厚生労働省も何もわかっちゃいないし、業界団体の反論なんて薄っぺらいもんでほぼノーガード。どうなっているの?
きっと今後も2024年の介護報酬改定に向けて、給付費削減や利用者負担など、厳しい情報が増えていくでしょう。
ケアマネは誇りと責任を持って、このような戯言に徹底的に反発していくべきではないでしょうか。
みなさんもそう思いません?
“福祉用具貸与のみのケアプラン減額問題。ケアマネが徹底的に反論すべきその理由” への1件のフィードバック