2024年の介護保険法改正についてですが、かなり大部分が見えるようになってきました。
利用者2割負担の拡大や福祉用具のレンタル購入選択制など、まだ大きな議題は残していますが、おそらく年末くらいまでは大きな動きになることはなさそうです。
今後は世論の動向がかなり大きくなりそうですね。
さて、今回注目したいのは、このニュース。
ケアマネが不足しているため、関東10都県の知事がケアマネの受験資格の緩和を国に要請したというものです。
関東のみならず、全国的にケアマネが不足している、というのが現状です。
ただ、この要請。現場の人だったら誰でもわかると思うんですが、はっきり言って見当違いも甚だしいんです。
ちょっと今回はこの話題を取り上げます。よろしければお付き合いください。
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ケアマネが足りない
「ケアマネが足りない」とよく言われますが、本当にそうなのでしょうか。
ケアマネの有資格者数(ケアマネ試験合格者数)は現時点で累計739,215人。73.9万人です。
かなり多いような気がします。が、近年はケアマネ試験の受験者数が大幅に落ち込んでいます。
グラフで紹介しますが、平成29年度の試験以降、国は介護支援専門員実務者講習受験資格を見直しています。介護福祉士や社会福祉士などの国家資格保有者もしくは実務経験のある相談援助職に限定されたことはおそらくみなさん周知のことかと思います。
それを機にケアマネ受験者数が4割に激減。そこから受験者数が回復することはなく現在に至るのです。高齢者が増えるにつれ、介護に携わる人員は増え続けているのにもかかわらず、ケアマネ受験者数が増えないのです。
受験資格を絞り込んで受験者の質が上がり、合格率が上がったかというとそうでもなく。受験資格の見直しを行った平成30年度が最も低い合格率10.1%を記録。現在も10%台後半から20%にかかるくらいを推移しています。
ケアマネ受験者数減少の要因は受験資格の見直しだけではありません。
資格更新制や管理者資格の厳格化、高額な受験料や実務者研修費用。
受験者が減り、当然ケアマネ合格者は減り、現場に供給されるケアマネは減る。
合格率の少ない県は年間29人しかケアマネ合格者が出なかった県もあったりします。そりゃケアマネが足りるわけがない。関東10都県の知事がケアマネ不足を訴えるのも当然です。
現場はどこも人は足らないです。求人はバンバン出ますし、人材紹介は紹介料をこれでもかと釣り上げます。
でも、受験者数減よりももっと深刻な問題があるんです。
ケアマネ有資格者でもケアマネとして働かない潜在ケアマネ
実は、ケアマネ試験に合格し、ケアマネ実務者研修を終了後も、ケアマネとして働かない人。
またはケアマネの仕事をしていたけれど退職して現場に戻らない人。
そんな潜在ケアマネが増えているんです。
※自分もそんな潜在ケアマネの一人なんですけどね。
ちょっとしたデータを紹介したいのですが、冒頭にケアマネ有資格者数をお伝えしました。
ケアマネ有資格者数は739,215人。
このうち、現場でケアマネとして働いている人、どのくらいいると思いますか?
188,170人です。びっくりでしょ。有資格者のうち、ケアマネとして働いているのはたったの25%です。
この数字、見ての通り居宅介護支援事業所だけでなく、地域包括や小規模多機能、グループホーム、施設ケアマネとして働いている人も全部合わせて「ケアマネジャーとして働いている人数」です。
もちろん、制度ができて20年もたてば年齢的に現役を退いているケアマネさんもたくさんいるのかもしれませんが、それにしても少なすぎると思いませんか?
根本的な問題はケアマネの受験者数が少ないことではなく、ケアマネとして働きたいという人が少ないことなんです。
そう、ケアマネという仕事に魅力を感じる人がいなくなってきたんです。
失われていくケアマネの仕事の魅力
ケアマネをとりまく環境は近年著しく悪化しています。
介護報酬は上がらず。
公平中立ではないと事業所の紹介率で拘束され。
ケアプランの質が低いと根拠のない指摘をされ。
福祉用具だけのケアプランなんて楽なんだから報酬削減しようとか言い出すやつがいて。
増え続ける作成書類に忙殺され。
高額で無価値な更新研修を強制受講させられ。
管理者資格は主任ケアマネ資格限定となり、多数の事業所が管理者を確保ができない状況に陥れられ。
インフォーマルサービスや地域ケア会議・断らない相談支援・マイナンバーカード支援という名のタダ働き業務を次々に押し付けられ。
くだらないローカルルールで報酬返還をちらつかされ。
24時間緊急対応を求められ。
財務省からはケアプランを有料化すると脅され。
ケアプランデータ連携するかと思ったら、上納金を払わされ。
コロナ対策のために実現した効率化も白紙にされ。
ここ数年だけでもこれだけボッコボコにされているんです。
まともな人間なら精神的に疲弊していってもまったくおかしくないでしょう。それだけ職業としての価値を脅かされ続けているのです。
ケアマネの仕事の魅力は次々と無残に剝ぎ取られているのです。
一方で、介護職の処遇改善が進み、ケアマネよりも給与も高く、好待遇な介護職(介護福祉士)として働く人が増えることは当然と言えば当然の話です。
この問題を放置している限りは、受験要件を緩和して、受験者数が回復したとしても、ケアマネとして働く人が増えることはありません。つまり、今回知事たちが発した要請は、焼け石に水どころか、ケアマネの質の低下というまた根拠のよくわからない口実を与えてしまうだけなのではないかということです。
結果的に資格手当の支給を勤務先から受けることだけを目的にケアマネ合格する介護職が増えるというだけの結果になるのではないでしょうか。
そしていま現場を支えているのは長年活躍してきたベテランケアマネさんたちですが、すでにケアマネの平均年齢は50歳を超え、高齢化が進んでいます。ベテランケアマネたちが減っていくと、相談支援を受けることができない状況が生まれるのかもしれません。
ケアマネ不足・ケアマネ難民の原因を作っているのは誰?
さて、ではこのような状況に陥った原因はどこにあるのか?
- 給付削減をすること以外頭にない財務省か。
- 根拠のないケアマネの質低下を唱え続ける厚生労働省か。
- 無意味なローカルルールと一貫性のない運営指導で事業所を苦しめる自治体か
- ケアマネ・介護を従属化させたい医療関係者か
- ケアマネを国家資格化すると言いながら絶対に検討すらしていない政権与党か
- ケアマネ業務に理解を示そうとしない多くの居宅介護支援事業所運営法人か
もう敵しかいない。笑える。
それだけではなく、更に大きな問題は職能団体である日本介護支援専門員協会。
ケアマネの質の低下論を無批判で受け入れ、ケアマネの専門性を主張できず医療に従属する道を進んで選び、国の方針に正当な根拠を持って反論することもしてこなかったツケがここにきているのです。
※ただ、最近の日本介護支援専門員協会は頑張っていると思います。コロナ禍で混乱するケアマネの業務を整理したり、手すりやスロープなど安価な福祉用具レンタルの給付対象外案に根拠を示して反論したり。こういった活動が見えるようになったことは評価しています。
ケアマネを取り巻く環境はますます悪化しています。多くのケアマネがこの仕事に未来を感じられなくなり職を離れています。
ケアマネという仕事が誇りを持てる仕事になるために。
公正中立をあくまでも止めるのであれば独立して事業運営ができる報酬体系を。
管理スキルと全く関係のない主任ケアマネ研修の廃止もしくは管理者要件の廃止を。
強制的な更新研修と高額な受講費用の廃止を。
無駄なローカルルールの廃止を。
ケアマネが足りないのはケアマネの仕事に無理解な社会が招いた結果です。今からそれを是正していくことで、「ケアマネに挑戦したい」「ケアマネとして職場復帰したい」という人はいくらでも増えるはずです。
ケアマネにもっと光を。
“「ケアマネが足りない!」ケアマネ受験資格緩和で招くさらなる崩壊!本当に必要なのは” への4件のフィードバック
ご意見全くそのとおりです。
私は2年ほど前から更新研修改善に向け取り組んでいますが、協会に訪ねても国会議員に頼んでも、「暖簾に腕押し」「馬耳東風」といった印象です。最近やっと研修をはじめとするケアマネのおかしな部分に異を唱える著名人も出てきました。公明党の議員が研修について質問もしてくれてました。もう一押ししたいところです。
ありがとうございます。
更新研修を受講するケアマネにとって意義のあるものに、そして負担の少ないものになることを願っています!