ウェブサイトやSNSを活用して事業所の魅力を発信することは、利用者やご家族に安心感を与える有効な手段です。また、集客・ケアマネや関連機関へのPR・さらに採用など、様々な効果をもたらします。
しかし、退職した職員の写真を掲載し続けることには、思わぬ法的リスクが潜んでいるため、注意が必要です。
今回は、退職した職員の写真掲載に関する法的問題点を具体的な事例や条文を交えて解説します。介護施設・事業所が取るべき模範的な対応策と、現実的な業務効率を考慮した対応策をご紹介します。
ぜひ、事業所の運営にお役立てください。
(※記事にはAIによる情報出力を含みます)
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1. 退職した職員の写真掲載に関する法的リスク
事業所のホームページなどに、退職した職員の写真がそのままに掲載されている。これは一般的によくあることだと思います。ただ、実はこれには注意も必要です。
なぜなら、現在の日本の法制度上、個人の写真を取り扱うことに非常に厳格であるからです。
結論から言います。
これにちゃんとルールを決めていないと本当に大きなリスクになります。
少なくとも、この3つだけはちゃんとやっておきましょう!
- 入職時に、写真の撮影や掲載などについての同意を契約事項に含ませる形で文書で得る。
- 個人がクローズアップされる写真の掲載に関しては公開前に必ず同意を得る。
- 退職時には、写真掲載継続についての意思確認。加工が必要な場合は対応。
- 掲載継続に同意した場合でも、削除の求めがあったら迅速に対応する。
では、なぜこのようにしっかりルール決めをしなければいけないのか。その背景となる日本の法規制について確認しましょう。
肖像権の侵害(民法第709条)
肖像権とは、個人が自分の肖像を無断で撮影・公表されない権利です。これは法律に明記されているわけではありませんが、”民法第709条(不法行為)”に基づき、判例を通じて認められています。
- 条文引用:
「故意又は過失によって他人の権利または法律上保護される利益を侵害した者は、その損害を賠償する責任を負う。」
リスク:退職した職員の写真を同意なく掲載し続けると、肖像権の侵害として損害賠償請求を受ける可能性があります。事業所の信頼性を損なうだけでなく、経済的な負担も生じます。
プライバシー権の侵害(憲法第13条)
プライバシー権は、個人の私生活や情報をみだりに公開されない権利で、憲法第13条で保障されています。プライバシー権という権利や法令の名称はありませんが、過去の判例などからも憲法第13条の条文を根拠にプライバシー権が広く認められています。
- 条文引用:
「すべて国民は、個人として尊重される。」
リスク:写真の掲載が個人のプライバシーを侵害する場合、人格権の侵害として法的責任を問われる可能性があります。職員の尊厳を損なう行為として、事業者側にとっては大きなリスクとなります。
個人情報保護法への違反(個人情報保護法第16条、第23条)
個人情報保護法では、個人情報の適切な取り扱いが義務付けられています。写真は個人情報に該当し、本人の同意なしに第三者に提供・公開することは違法となります。
- 第16条(利用目的による制限):
「個人情報取扱事業者は、あらかじめ本人の同意を得ないで、…利用目的の達成に必要な範囲を超えて、個人情報を取り扱ってはならない。」- 第23条(第三者提供の制限):
「個人情報取扱事業者は、あらかじめ本人の同意を得ないで、…個人データを第三者に提供してはならない。」
リスク:違反した場合、行政処分や刑事罰の対象となる可能性があります。事業所の信用失墜だけでなく、法的な制裁を受けるリスクも高まります。
同意の有効性と撤回権
同意は、本人が自らの意思で与えるものですが、一度の同意が永続的に有効であるとは限りません。特に、退職後の同意の有効性や、本人が同意を撤回する権利(自己決定権)は法的に認められています。
リスク:同意が無効と判断された場合、肖像権やプライバシー権の侵害となる可能性があります。事業所は常に最新の同意状況を把握し、適切に対応する必要があります。
ということで、日本の法制度においては、退職後も含めて個人の写真が掲載されることに関する規制はかなりガチガチに保護されていることがわかります。
では、具体的にどのような問題につながるのか、そしてどのように対処すべきかを解説していきます。
2. 事例とエピソード
まずは事例として、退職後の写真を掲載されていたらどうなるか。ケースを想定して対応の結果をまとめてみました。
事例1:退職後も写真が掲載され続けたケース
ある介護事業所で、退職した職員Aさんの写真がホームページ上に掲載され続けていました。Aさんは新たな職場で働き始めたものの、旧職場のホームページに自身の写真が残っていることに気づき、不快感を覚えました。そこで、事業所に写真の削除を求めましたが、事業所は「過去の実績として掲載している」として対応を怠りました。
結果:Aさんは弁護士を通じて肖像権の侵害として損害賠償請求を行い、事業所は法的責任を問われることとなりました。このケースは、事業所の信用失墜を招き、新たな人材採用にも影響を及ぼしました。
事例2:削除依頼に適切に対応した事業所の成功例
別の介護事業所では、退職した職員Bさんからホームページ上に掲載されている写真の削除依頼がありました。事業所はすぐに写真を削除し、Bさんに削除完了の報告と謝罪を行いました。
結果:Bさんは事業所の迅速かつ誠実な対応に感謝し、円満に問題が解決しました。この事例は、他の職員からも高く評価され、事業所の信頼性向上につながりました。
実際にこのように退職した職員から内容証明などを送付されるケースや、損害賠償請求に発展するケースなどもあるということです。ただし、日本の法制度は事業者側には厳しく、掲載前に同意していたとしても、退職し、状況が変わればその同意は無効とされる場合もあります。写真掲載には注意が必要です。
3. 介護事業所が取るべき対応策
介護事業所がとるべき対応はどのようなものか。まずは、厳格に法令を遵守し、非の打ち所のない対応をすると以下のような対応が考えられます。
理想的な対応策
理想的な対応は以下の通りです。
事前(雇用契約時等)
- 明確な同意の取得:雇用契約時等に、写真の撮影・掲載について、職員から文書による明確な同意を取得します。使用目的、使用範囲と期間、撤回権の明示などを詳細に記載します。
- 職員への十分な説明:写真掲載によるリスクや影響を説明し、職員の理解を深めます。質疑応答の場を設け、懸念を解消します。肖像権やプライバシーなどについての定期的な研修開催など。
- 特別な配慮:未成年者の場合は親権者の同意を取得し、個別の事情や宗教的背景を尊重します。
掲載時
- 同意内容の遵守:同意を得た範囲内でのみ写真を使用し、内容が適切であることを確認します。
- 個人情報の保護:写真データの安全な保管とアクセス制限を徹底します。
- 法令遵守の確認:最新の法令に基づき、内部監査を実施します。
退職時
- 同意の再確認:退職する職員に対し、写真の掲載継続について意思確認を行います。
- 掲載内容の見直し:必要に応じて写真や情報を修正・削除し、掲載の必要性を再評価します。
- 退職者への情報提供:写真の取り扱い方針や削除依頼の手続き方法を説明し、連絡先を確認します。
削除依頼時
- 迅速な対応:削除依頼を受けたら、速やかに写真を削除し、本人に報告します。
- 法的義務の履行:個人情報保護法を遵守し、対応内容を記録します。
- 内部プロセスの見直し:原因を分析し、再発防止策を講じます。
模範的な対応のポイント
- 誠実さと迅速さ:対応が遅れると法的リスクが高まります。迅速かつ誠実な対応が重要です。
- コミュニケーションの徹底:職員との信頼関係を築き、トラブルを未然に防ぎます。
え・・・?
こんなのできる事業所ある?
おそらくここまでの対応ができる事業者は皆無だと思っています。
日本の法制度はお花畑のような空想の世界の人間が作っているんじゃないかなと思えるほど、事業者にとって厳しい制度になっているんです。
ただ、あくまでこれは理想的な対応です。
現実的には業務効率とのバランスを取りつつ、法令に則った対応が推奨されます。
次に紹介するパターンに近づけることを目指しましょう。
現実的な対応策:業務効率とのバランス
実務上、全ての法的要件を厳格に満たすことは難しい場合もあります。業務効率を維持しつつ、法的リスクを最小限に抑えるための現実的な対応策をご紹介します。
リスクベースのアプローチ
- 優先度の設定:個人が特定されやすい写真や広範囲に公開される媒体には、同意取得を厳格に行います。個人のインタビュー動画・インタビュー記事など、個人にクローズアップされた内容に関しては特に優先すべき事項です。
- 低リスクの場面では効率化:個人が特定されにくい写真や内部資料では、同意取得手続きを簡略化します。
包括的同意の活用と具体化
- 包括的同意の取得:契約時や入職時に、写真の利用について包括的な同意を得ます。
- 同意内容の具体化:可能な限り具体的な利用目的や媒体を記載し、同意の有効性を高めます。
同意取得の効率化
- デジタルツールの活用:電子メールやウェブフォームで同意を取得し、管理を効率化します。
- 事前告知とオプトアウト方式:写真撮影・掲載の方針を事前に告知し、不同意の意思表示があった場合のみ対応します。
個人が特定されにくい工夫
- 写真の加工:顔をぼかす、遠景で撮影するなど、個人の特定を防ぐ手法を用います。
- 代替素材の使用:イラストやアイコンを活用し、情報を伝えます。
従業員教育と意識向上
- 基本的な法令遵守の教育:全職員に対し、肖像権や個人情報保護の基本を周知します。
- 現場での注意喚起:写真撮影時に、写りたくない方がいないか確認するなどの配慮を行います。
これが現実的な対応かと思います。
ただ、雇用契約時等に包括的な同意を得たとしても、掲載する内容によっては、包括的同意は効力を持たない場合があります。原則としては個々の写真それぞれに個別的同意を得るというのが法制度上はセオリーとなります。ただ、すべての写真をチェックして確認をとることは不可能です。
現実的には、特定の職員個人がクローズアップされるような写真を掲載する場合に職員に許可を取り、そうでない場合はすべての写真を個別に確認するまでは必要がないと考えるべきでしょう。集団の中の一人のわずかに映りこんでいる職員ひとりの確認が取れなかったために、写真がお蔵入りしてしまうようなことまでは必要ないと考えます。
4. SNSでも同様の注意が必要
ウェブサイトだけでなく、”SNS(ソーシャルメディア)”における写真掲載についても、同様の法的リスクと対応策が適用されます。SNS特有のリスクと注意点を理解し、適切な対応を行いましょう。
SNS特有のリスク
- 情報拡散の速さと範囲:SNSでは情報が瞬時に広まり、一度投稿した写真が多数の第三者に共有される可能性があります。
- 削除困難性:投稿を削除しても、既に共有・保存された情報を完全に消去することは困難です。
注意すべきポイント
- 同意取得の徹底:SNSへの投稿についても、事前に職員から明確な同意を得ます。
- 投稿内容の慎重な選択:個人情報やプライバシーを侵害しない写真を選びます。
- プライバシー設定の確認:投稿の公開範囲を適切に設定し、不要な情報拡散を防止します。
- プラットフォームの規約遵守:各SNSの利用規約を確認し、違反しないように注意します。
SNSに積極的に画像を投稿する施設や事業所も増えています。これはいいことだと思います。施設や事業所の個性を示し、多くの世代から共感を得ることができます。施設・事業所の認知を広め、ファン拡大ができれば、さらなる事業発展にもつながります。さらに、介護という仕事の社会的評価やブランド向上にもつながります。
インスタグラム、Tiktok、X、facebook、Youtubeなど、様々なプラットフォームがありますが、施設・事業所が運営するこれらすべてのアカウントも全てホームページと同等と考えましょう。
複数のプラットフォームに横展開で使いまわしている場合もあると思いますが、削除要請があった場合は全てのプラットフォーム上から削除をしなければいけません。どの写真をどのプラットフォームに投稿したのか。管理するのは難しいと思いますが、適切な対処ができないと事業に深刻な打撃を与えるきっかけにもなりかねないことを意識しましょう。
5. まとめ
退職した職員の写真を掲載し続けることは、肖像権やプライバシー権の侵害、個人情報保護法違反など、重大な法的リスクを伴います。理想的には、厳格な法令遵守と職員への十分な配慮が求められます。しかし、業務効率とのバランスも考慮し、現実的な対応策を講じることが重要です。
これらの対応策を実施することで、法的リスクを回避し、職員との信頼関係を強化することができます。結果的に、事業所の信頼性や社会的評価の向上につながります。ぜひ、今日からできることから始めてみてください。
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